はじめに:なぜ、「伝えたはずなのに」は起きるのか?
「部下にちゃんと指示したはずなのに、指示通り動いてくれない」
「自信のあるプレゼンだったのに、相手の反応が悪い」
もしあなたが今、このような「伝わらない悩み」を抱えているなら、まず疑うべきは「文章力」ではありません。てにをは(文法)が正しいかとか、語彙力が豊富かといったことは、実は本質的な問題ではないのです。
問題なのは、「伝わる構造」です。
今回ご紹介する本は、シリーズ累計60万部を突破したベストセラー編集者・柿内尚文氏の著書『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』です。
この本は、単なる文章テクニックの本ではありません。
自分と相手の脳内をチューニングし、言葉や考えがきちんと相手に伝わる方法を授けてくれる一冊です。
学校や仕事で部下や後輩とのかかわりは避けては通れません。
そのときに話の分からない上司、先輩にならないように、一緒に伝わる技術を身につけていきましょう
第1章:「バナナ」は誰に売る?
まずは、本のタイトルにもなっている有名な思考実験から始めましょう。
いきなりですが、あなたにミッションです。
「バナナの魅力を、100文字で伝えてください」
さて、あなたならどう書きますか? 少し時間をとって考えてみてください。紙に書いてみてもいいです。
……
いかがでしょうか。もし、あなたの答えが次のようなものだったら、残念ながら「伝わらない文章」かもしれません。
× 残念な例: 「世界中で愛されている黄色い果物です。甘くて美味しくて、栄養も豊富。スーパーやコンビニで手軽に買えて、値段も安いので、朝食やおやつにぴったりです。みんな大好きバナナをぜひ食べましょう。」
一見、何も間違っていません。バナナのいい点をしっかりとらえて説明しています。
しかし、この文章を読んで「やっぱりバナナってすごいな!今度絶対買おう」と考える人はいるでしょうか? いませんよね。 なぜなら、これは「誰にでも当てはまる(誰にも刺さらない)言葉」の羅列だからです。
答えは「ターゲット」の中にある
著者はこう言います。 「『誰に』伝えるかが決まらなければ、魅力なんて伝えようがない」と。
例えば、ターゲットを変えると「正解」はこう変わります。
- ターゲットA:ダイエット中の女性
- 「甘いものが食べたい、でも痩せたい。そんなあなたの味方です。バナナは1本約86kcalと意外に低カロリー。しかも腹持ち抜群で、食前の1本で過食を防げます。罪悪感なしのスイーツをどうぞ。」
- ターゲットB:マラソンランナー(私)
- 「残り5kmでの『足つり』が怖いなら、これをポケットに入れてください。バナナに含まれるカリウムは筋肉の痙攣を防ぎます。即効性のエネルギー源として、あなたのラストスパートを支えるパートナーです。」
いかがでしょうか。 内容は同じバナナですが、訴求しているポイントが全く違います。 ランナーの私なら、後者の文章を読んだ瞬間「次スーパーに寄ったら絶対買おう」と思います。
文章を書く前、伝え方を考える前に、「そのバナナ(言葉)を誰に届けたいのか?」を決めること。 これが、伝わる構造を作るための第一歩です。
第2章:「伝える」と「伝わる」は決定的に違う
多くの人が陥りがちな勘違いがあります。 それは、「正しい情報を伝えれば、相手は理解してくれるはずだ」という思い込みです。
著者は、「伝える」と「伝わる」の違いを明確に定義しています。
- 伝える(Action):
- 自分が言いたいことを言った状態。
- ボールを投げっぱなしの「自己満足」。
- 伝わる(Goal):
- 相手がその内容を理解し、「行動」が変わった状態。
- ボールが相手のミットに収まった「結果」。
会社のプレゼンで例えるなら、「売上データを全て羅列して発表した」のは、ただ「伝えた」だけです。 それを見て上司や同僚が「なるほど、おもしろい。この企画は採用したい!」と評価を下して初めて「伝わった」ことになります。
相手には「理解するコスト」がかかっている
私たちはつい、自分目線で文章を書いてしまいます。 しかし、読み手は忙しく、面倒くさがりで、あなたに興味がありません。
そんな相手に対して、難解な専門用語を使ったり、結論が見えない文章を書いたりするのは、「不親切(コストの押し付け)」でしかありません。 「伝わる技術」とは、言葉巧みに相手を操ることではなく、相手がいかに楽に、楽しく情報を受け取れるかを考える「サービス精神」のことなのです。
第3章:伝わる構造を作る「7つの法則」
本書には「伝わる」ための36の法則が紹介されていますが、その中から特に会社や学校ですぐに使える重要な法則を3つピックアップして深掘りします。
1. ゴール設定の法則
言葉を伝える前に、必ず「伝えた後に相手にどうなってほしいか(ゴール)」を設定します。
- ダメな例: 「今日のランチのハンバーグが美味しかったという感想」
- ゴールがないため、聞いた人は「だから何?」としか思えません。
- 良い例: 「この店のハンバーグを食べに、聞いた人に足を運ばせる」
- ゴールが決まると、「場所へのアクセス」「混雑しない時間帯」「肉汁が飛び出す瞬間の写真」など、伝えるべき内容が自動的に決まります。
ブログ記事一つ書くにも、「商品を買ってほしいのか」「ブックマークしてほしいのか」「ただ笑ってほしいのか」を決めなければ、その記事は迷子になります。
2. メリット・デメリットの法則
人は「得したい」という欲求よりも、「損したくない(損失回避)」という本能のほうが強く働きます。 きれいな言葉でメリットを並べるよりも、時にはデメリット(リスク)を提示するほうが、相手の心を動かせることがあります。
- 普通の伝え方: 「この本を読めば、文章力が上がります」
- 損したくない心理を突く: 「この法則を知らないまま社会に出ると、あなたは一生『コミュ障』として損をし続けるかもしれません」
少し極端ですが、後者のほうが「えっ、それは困る」とクリックしたくなりませんか?
3. 親近感の法則
どんなに正しい正論でも、苦手な人から言われると否定したくなります。 逆に、好きな人や自分と似た境遇の人からの言葉は、スッと入ってきます。これを「親近感」と言います。
ブログの冒頭で「私も昔はそうでした」「失敗ばかりしていました」というエピソードを入れるのは、この法則を使うためです。 「私はあなたの敵ではなく、同じ悩みを持つ味方ですよ」と握手を求めることで、相手は聞く耳を持ってくれます。
第4章:【実践】「伝わる化」してみた
では、実際にこの法則を使って、研究室でのプレゼンをリライト(修正)してみましょう。
研究室のプレゼン発表
- × Before(伝える):
- テーマ:「新規〇〇合成法における温度条件の検討」
- 分析:事実の羅列。専門家以外には「ふーん」で終わります。
- ○ After(伝わる):
- テーマ:「実験時間を半分にする!コスト削減と効率化を両立する、新しい〇〇合成プロセスの提案」
- ターゲット: 効率化を求めている教授や企業の研究員。
- ゴール: この手法の実用性を認めさせる。
- メリット: 「時間が半分になる(=楽になる、金が浮く)」という具体的な利益(ベネフィット)を提示。
ほんの少し「相手」を意識して言葉を変えるだけで、印象が劇的に変わるのがわかると思います。
まとめ:コミュ力とは「想像力」である
『バナナの魅力を100文字で伝えてください』を読んで痛感したのは、文章力とは語彙の多さではなく、想像力の深さであるということです。
「この言葉を使ったら、相手はどう思うだろう?」
「今、相手はどんな状況で、何に困っているだろう?」
相手の脳内を想像し、その人にプレゼントを渡すように言葉を選ぶこと。 それができれば、あなたのアドバイスも、プレゼン発表も、上司・部下への連絡も、必ず「伝わる」ようになります。
今日から相手に何か伝えたいときは、「相手の脳内とチューニングする」ことから始めてみませんか?
この記事に書いたことはほんの一部です。
↓詳しく知りたい、興味がある人はぜひ本書も読んでみてください。↓
追伸:耳から学ぶ「伝え方」
「本を読む時間が惜しい」という忙しい方には、Audible(オーディブル)でこの本を聴くのがおすすめです。
著者の柿内さんは編集者なので、言葉のリズムやテンポが非常に良く、聴くだけでも「伝わる話し方」の勉強になります。 私は通学中の電車内で聴いていますが、ラジオ感覚でスッと頭に入ってくるので、移動時間がそのまま「文章力向上セミナー」に変わりますよ。


コメント