鬱、疲労、不眠の原因は「文明病」?|最高の体調【鈴木祐】


はじめに:なぜ私たちは、こんなにも疲れているのか?

「朝、起きた瞬間から体がだるい」 「デスクに向かっても、どうしても集中力が続かない」 「休日にいくら寝ても、疲れが取れた気がしない」 「将来に対する漠然とした不安が消えない」

もしあなたが、こうした不調を「自分の気合が足りないせいだ」とか「もう歳だから仕方ない」と片付けているなら、それは大きな間違いです。 また、これらの症状を解消するために、高価なサプリメントを飲んだり、流行りのビジネス書を読み漁ったりしているなら、それもまた徒労に終わる可能性が高いでしょう。

なぜなら、あなたの不調の原因は、個人の能力や努力の問題ではないからです。 もっと根本的な、人類という種(スペック)そのものに関わる構造的な欠陥が原因だからです。

今回ご紹介する本は、サイエンスライター・鈴木祐(すずきゆう)氏の著書『最高の体調(ACTIVE HEALTH)』です。

著者の鈴木氏は、年間5,000本もの科学論文を読み込み、ヘルスケア企業のアドバイザーも務める、日本屈指の「文献オタク」。通称「パレオな男」としても知られています。 本書は、彼が過去に読破した10万本以上の論文の中から、信頼性の高いエビデンス(科学的根拠)だけを抽出し、現代人が抱えるあらゆる不調の正体を解き明かした一冊です。

私は普段、大学で化学を専攻し、日々実験データと向き合っていますが、この本のアプローチは非常に「理系好み」で信頼がおけるものでした。 精神論や経験則は一切ありません。あるのは、「進化医学」というロジックと、「人体というシステムのデバッグ(修正)方法」だけです。

この記事では、5,000文字を超えるボリュームで、本書が提唱する「最高の体調」を手に入れるための全知識を、余すところなく解説します。 読み終える頃には、あなたの体の中で何が起きているのかが手に取るように分かり、今日から何をすべきかが明確になっているはずです。


第1章:私たちは「スマホを持った原始人」である

すべての不調の根源を知るためには、時計の針を数百万年前に戻す必要があります。

人体のスペックは「旧石器時代」のまま

私たちの遺伝子(DNA)は、過去1万年もの間、ほとんど変化していません。 つまり、私たちの体や脳のスペックは、マンモスを追いかけ、木の実を拾って生活していた「旧石器時代のクロマニヨン人」とほぼ同じなのです。

しかし、私たちを取り巻く「環境」はどうでしょうか? ここ100年〜200年の間に、劇的な変化を遂げました。

  • 食事: 飢餓の心配はなくなり、精製された糖質や加工食品が溢れかえっている。
  • 住環境: 自然のないコンクリートジャングルで、夜遅くまで人工照明(ブルーライト)を浴びている。
  • 人間関係: 数十人の集落(トライブ)ではなく、SNSを通じて世界中の数万人と繋がり、常に他人と比較されている。

進化のミスマッチ(文明病)

この「変わらない遺伝子」と「変わりすぎた環境」の間に生じた巨大なギャップ。これこそが、あらゆる不調の正体であり、本書ではこれを「進化のミスマッチ」あるいは「文明病」と呼んでいます。

例えるなら、ハードウェアは旧式のiPhone 3GS(原始人の体)なのに、OSだけ最新のiOS 19(現代社会)を無理やりインストールしているような状態です。 これではシステムがバグを起こし、処理落ち(フリーズ)したり、発熱したりするのは当たり前です。

「集中できない」「鬱っぽい」「太りやすい」。 これらはすべて、あなたの性格のせいではなく、環境と遺伝子のミスマッチが引き起こした「システムエラー」に過ぎないのです。


第2章:諸悪の根源は「炎症」にある

では、このミスマッチは、具体的に体内でどのような悪さをするのでしょうか? その答えを一言で言えば、「炎症」です。

体の中でずっと「火事」が起きている

炎症とは本来、怪我をしたりウイルスが入ってきたりした時に、体を守るために起きる「防御反応(免疫システムの攻撃)」です。 怪我をした場所が赤く腫れたり、風邪で熱が出たりするのは、免疫細胞が敵と戦っている証拠です(急性炎症)。

しかし現代人の体では、食べ過ぎや運動不足、ストレスといった「異物(と体が誤認するもの)」が常に入ってくるため、免疫システムが暴走し、戦う必要のない場所でずっと攻撃を続けてしまっています。 これが「慢性炎症」です。

痛みも熱もないため自覚症状はありませんが、体の中では常にボヤ騒ぎが起きている状態。 これにより血管や臓器が少しずつ傷つけられ、細胞の機能が低下していきます。

脳が「お前は病気だ」と勘違いする

さらに恐ろしいのは、炎症が脳に与える影響です。 体内で炎症が起きると、炎症性サイトカインという物質が血液に乗って脳に到達します。これを受け取った脳は、こう判断します。

「体内で何かが起きている! これは感染症かもしれない。余計な体力を使わないように、体を休ませろ!」

その結果、脳は私たちの「やる気」をシャットダウンします。 体がだるくなり、外に出たくなくなり、人と会うのが億劫になり、不安感を増大させる。これは本来、病気の回復を早めるための防御本能なのですが、慢性炎症が続く現代人にとっては、「理由のない鬱(うつ)状態」「慢性疲労」として現れるのです。

私が大学の実験でミスが続いたり、研究に行き詰まって無気力になったりしていた時、まさに私の脳内はこの「炎症」によってハイジャックされていたのだと気づきました。 メンタルが弱いのではなく、物理的に脳がエラーを吐いていたのです。

つまり、「最高の体調」を手に入れるための最短ルートは、「体内の炎症レベルを極限まで下げること」。これに尽きます。


第3章:【解決策①】「腸」を整えて内側から鎮火する

炎症を消すために、まず着手すべきは「腸」です。 なぜなら、腸には全身の免疫細胞の約70%が集結しているからです。

現代人の腸は「スカスカ」になっている

腸内には100兆個もの細菌が住み着いていますが、現代人の腸内細菌は、原始人に比べて圧倒的に多様性が失われています。 抗生物質の乱用、殺菌のしすぎ、食物繊維不足により、腸内フローラ(花畑)は荒れ果てています。

さらに悪いことに、荒れた腸壁には隙間ができ、そこから本来入ってはいけない毒素(未消化のタンパク質や菌の死骸)が血管内に漏れ出してしまう「リーキーガット(腸漏れ)症候群」を引き起こしている人が激増しています。 これが血液に乗って全身を巡り、慢性炎症の火種となるのです。

理系流:腸内環境デバッグ術

では、どうすればいいのか? 答えはシンプルに「菌を入れる(プロバイオティクス)」「菌の餌をやる(プレバイオティクス)」の2つです。

  1. 発酵食品を食べる
    • 納豆、キムチ、ヨーグルト、ぬか漬け。これらを毎日食べることで、腸に良質な菌を送り込みます。
    • 私は毎朝の納豆を習慣にしてから、明らかに昼食後の眠気が減りました。
  2. 食物繊維を倍増させる
    • 野菜、キノコ、海藻、果物(特にベリー類)。腸内細菌の餌となる食物繊維を大量に摂取します。
    • 本書では、ゴボウや玉ねぎに含まれる「イヌリン」や、冷えた白米に含まれる「レジスタントスターチ」も推奨されています。

「野菜を食べなさい」という子供の頃からの教えは、単なる栄養補給ではなく、「体内の火事を消すための消火剤」だったのです。


第4章:【解決策②】「自然」に触れてシステムを再起動する

次に環境へのアプローチです。 私たちの脳は、自然の中で過ごすように設計されています。これを「バイオフィリア(自然愛)」仮説と呼びます。

自然不足が脳をパニックにさせる

コンクリートに囲まれ、直線ばかりの人工的な風景の中にいると、原始的な脳は「ここは住む場所ではない」と警戒アラートを鳴らします。これが交感神経を刺激し、常に緊張状態(ストレス)を作り出します。

逆に、森や海などの自然に触れると、副交感神経が優位になり、炎症マーカーが劇的に低下することが数々の研究で証明されています。

偽物の自然でも効果がある?

「そんなこと言われても、都会暮らしですぐに森には行けない」 そう思う方も安心してください。脳は意外と単純で、「偽物の自然」でも十分にリラックス効果を得られることがわかっています。

  • 観葉植物を置く: 視界に入る場所に緑があるだけで、生産性が上がる。
  • 自然音を聴く: 川のせせらぎや鳥の声(YouTubeでOK)を流す。
  • 画像を見る: PCの壁紙を大自然の画像にする。

ランナーにおすすめ「グリーンエクササイズ」

もしあなたが私のようにランニングをしているなら、ジムのトレッドミルではなく、「公園」や「河川敷」を走ってください。 自然の中で体を動かすことを「グリーンエクササイズ」と呼びますが、これは通常の運動に比べて、ストレス低減効果が数倍高いというデータがあります。

たった5分、公園を散歩するだけでも効果はあります。 昼休みにスマホを置いて外に出る。これだけで、午後の脳のスペックは別物になります。


第5章:【解決策③】「畏敬」の念で自分を消す

最後に、メンタルへのアプローチとして、本書が提示する非常にユニークな概念を紹介します。 それが「畏敬(Awe:オウ)」です。

畏敬とは何か?

畏敬とは、「自分の理解を超えるような巨大なものに触れた時の感動」のことです。 満点の星空を見た時、壮大な大自然を目の当たりにした時、あるいはとてつもなく美しい芸術作品に触れた時、私たちは言葉を失い、「自分なんてちっぽけな存在だ」と感じます。

実はこの「自分(自我)が小さくなる感覚」こそが、炎症を鎮める最強の薬なのです。

悩みの正体は「肥大化した自我」

現代人の悩みは、そのほとんどが「自分のこと」ばかりです。 「将来どうしよう」「あの人にどう思われているだろう」。 しかし、畏敬の念を感じて「自分は宇宙の一部に過ぎない」と実感すると、脳内の「自己批判」を行うエリアの活動が低下します。

結果として、体内の炎症性サイトカイン(インターロイキン-6)のレベルが、畏敬を感じる頻度が高い人ほど低いことがわかっています。

日常で「Awe」を感じる方法

わざわざグランドキャニオンに行かなくても、畏敬は作れます。

  • SF映画やドキュメンタリーを見る: 宇宙の広さや深海の神秘に触れる。
  • 科学の神秘を知る: 私たち理系学生なら、複雑怪奇な化学反応のメカニズムや、人体の精巧なシステムを知った時の「よくできてるなぁ…!」という知的興奮。あれも立派なAwe体験です。
  • 歴史に触れる: 数千年の歴史を持つ建造物や古典に触れる。

「悩み」で頭がいっぱいになったら、空を見上げるか、壮大な映画を観ましょう。 自分の悩みを物理的に小さくしてしまうのです。


第6章:未来の不安を消す「遊び」の力

不調のもう一つの原因は「不安」です。 原始人の不安は「今、ライオンがいる」という短期的なものでしたが、現代人の不安は「老後の資金が…」という「遠い未来の漠然とした不安」です。

脳は「わからないこと」を極端に嫌い、警戒し続けます。これが慢性のストレスになります。

「今、ここ」に集中する

この未来への不安を断ち切る方法は、マインドフルネスや瞑想などいろいろありますが、本書が勧めるのは「遊び化」です。

「遊び」の定義とは、「その行為自体が目的になっていること」。 結果や報酬のためではなく、ただ楽しいからやる。これに没頭している時、脳は「今、ここ」に集中し、未来への不安を忘れます。

私にとってのそれは「ブログ執筆」であり「マラソン」です。 「PVを稼ぐため」「痩せるため」という目的意識が強すぎると、それは「仕事(労働)」になり、ストレスになります。 しかし、「書くこと自体が楽しい」「走るリズム自体が心地よい」という感覚で没頭している時、脳は最高にリラックスし、パフォーマンスを発揮します。

あなたの生活の中に、損得勘定抜きの「遊び」はありますか? もしないなら、かつて子供の頃に時間を忘れて熱中したことを思い出してみてください。それが不調を治すヒントになるはずです。


おわりに:脱・原始人ではなく、適・原始人へ

ここまで、5,000文字以上にわたり『最高の体調』のエッセンスを解説してきました。 最後に、要点を3つにまとめます。

  1. 不調の原因は「文明病」。 原始人の体に現代の環境は合っていない。
  2. 諸悪の根源は「炎症」。 腸を整え、自然に触れて、体内の火事を消火せよ。
  3. 「畏敬」と「遊び」を取り戻す。 自分を小さくし、今この瞬間に熱狂せよ。

私たちはもう、原始時代の生活には戻れません。スマホを捨てて森で暮らすことは不可能です。 しかし、現代の生活の中に、少しだけ「原始的な要素」を取り戻すことはできます。

  • 今日のランチに、サラダと納豆を一品足してみる。
  • 寝る前の1時間、スマホを置いて本を読んでみる。
  • 休日に、近くの大きな公園まで散歩してみる。

たったこれだけのことで、あなたの遺伝子は「あ、懐かしい環境だ」と喜び、本来持っているハイスペックな機能を解放し始めます。

体が軽くなる。頭がクリアになる。理由もなく前向きな気分になる。 それが、人間が本来あるべき「最高の体調」です。

もしあなたが今、何らかの不調に苦しんでいるなら、ぜひ本書を手に取ってみてください。 そこには、あなたの人生を好転させるための「取扱説明書」が、科学的なデータと共に記されています。

追伸:耳で聴く「最高の体調」

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本書の情報量は膨大ですが、音声で聴くと驚くほどスッと頭に入ってきます。 私はランニング中や通学中に聴いていますが、特に「進化の歴史」や「畏敬の話」は、物語を聴くようで非常に面白いです。 「聴く読書」で、効率よく脳と体をアップデートしましょう。

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